
アルフレッド・アドラーという精神科医によって体系化された個人心理学、通称アドラー心理学に基づくベストセラー本『嫌われる勇気』、そしてその続編である『幸せになる勇気』。
多くの人の人生観に影響を与えた名著ですが、うつ病のときに読むにはどうなんだろう?と不安に思ったことはありませんか?
私自身、うつ病の当事者として、調子が悪いときには「こう考えられない自分がダメなのかも…」と、自己啓発本でかえって落ち込んでしまった経験があります。
でも、実際にこの2冊を読んでみると、「勇気をもらえた部分」と「これはちょっと注意が必要かも」と感じた部分の両方がありました。
この記事では、アドラー心理学とどう向き合うかについて、うつ病歴20年の図書館員である筆者の視点からお伝えします。
・うつ病の診断を受けており、本を読む気力が少しずつ戻ってきた
・過去に自己啓発本でつらくなったことがある
・人からの期待や評価に応え続けて疲れている
・教育・福祉・図書館など、子どもと関わる仕事をしている
・子育ての中で「どう接すればいいか悩む」ことがある
うつ当事者が語るメリット
①読書が苦手でもスッと入れる語り口
どちらも、読者の分身的な役割の青年と、解説役の哲人との対話形式です。
アドラー心理学は、ときに反発したくなるような理論があり、その話になるたび、青年が「あなたはサディストだ!」などと読者の気持ちを代弁してくれます。
こういったやりとりが非常に痛快なため、本を普段読まない人にも読みやすいと感じました。
特に『幸せになる勇気』では難解な哲学的な説明が減り、より読者が気になるであろうポイントを解説しながら話が進んでいきます。
「読むのがつらくならないか不安」という方にも安心して手に取ってもらえると思いました。
②心が楽になる言葉があるかも
「他人からの承認を求めない」
「他人の課題に踏み込まない」
というアドラー心理学の考え方には、正直なところ救われた部分もありました。
たとえば私は、職場での評価や他人の目を気にして、自分をすり減らしていた時期がありました。
「人の目が気にならない自分になりたい」と思っても、なかなかそうはなれない。
でも、
「それは自分の課題ではない」
「他人がどう思うかは他人の課題」
と言われると、不思議と肩の力が抜けたのを覚えています。
すべてを信じる必要はありません。
自分に合う部分だけをそっと取り入れるというスタンスが、うつのときには特に大切だと思います。
③「ほめて伸ばす」はもう古い?子育てに効くアドラー的視点
『幸せになる勇気』では、「ほめる」という行為すらも支配や操作の一種と見なされ、真の信頼関係を築く妨げになると語られています。
私も最初は戸惑いましたが、この考え方を意識することで、子どもとの向き合い方に変化が生まれました。
「ほめて伸ばす」教育がよいとされる現代を生きる私たちにとって、これは衝撃的です。
でも、アドラーの視点では「子どもを操作しない」ことこそが大切。
評価で動かすのではなく、ありのままの存在を認め合う協力的な関係を築くことが目標とされています。
そのためにはほめるのではなく、感謝することが重要だとしています。
図書館で子どもたちと接するなかでも、「すごいね!」「えらいね!」という声かけの裏に、どこか大人目線の“ジャッジ”が含まれていなかったか、改めて考えるようになりました。
うつ病当事者が感じた注意点
①「哲学」として読むことが前提
まず前提として、『嫌われる勇気』は医学書でもカウンセリングの実践書でもありません。
アドラー心理学は人生をどう考えるかという哲学的な立場から語られています。
『幸せになる勇気』の冒頭では、「アドラー心理学は宗教なのか?」という問いに対し、作中の哲人がこのように答えています。
このあたりはいまだ議論の続くところではありますが、フロイトの精神分析学、ユングの分析心理学、そしてアドラーの個人心理学は、反証可能性を持たないという意味において、いずれも科学の定義とは相容れないところがある。それは事実です。
~中略~
わたしはアドラー心理学のことを、ギリシア哲学と同一線上にある思想であり、哲学であると考えています。
(『幸せになる勇気』p.25~26より。赤字部分は筆者による)
このように、アドラー心理学は科学ではなく人生哲学として読むことが前提になっています。
医学的な治療や根拠を求めている方には物足りなく感じる部分があるかもしれませんが、「どう生きるか」を自分なりに考えたいときのヒントになる、そんな本です。
②「トラウマは存在しない」に違和感を覚える可能性も
本の中で特に議論を呼ぶのが、「トラウマは存在しない」という主張です。
アドラー心理学では、「人は過去の経験に支配されるのではなく、自らの目的のために現在の行動を選んでいる」と考えます。
でも、精神医学の世界ではトラウマは脳科学的にも実在するとされているため、うつ当事者としては「自分のつらさが軽く扱われているように感じる」こともありました。
このため、「トラウマは存在しない」という考え方に反発を感じる方もいるかもしれません。
そんなときは、「この部分は自分には合わない」と切り離して読むスタンスで問題ないと思います。
③動画を活用するという選択肢も
うつ状態のとき、本を読むこと自体がしんどいこともあります。
そんなときにおすすめなのが、YouTubeの解説動画です。
特に中田敦彦さんの「YouTube大学」では『嫌われる勇気』がテンポよく、分かりやすく紹介されています。
動画で一度概要を知っておくと、「読むハードル」がぐっと下がります。
※動画を見たい方は 関連記事・参考リンクへ
「本を読まないといけない」という思い込みを手放して、自分に合った方法で触れてみるのもひとつの手です。
④10年かけて身につけるつもりでいい
『嫌われる勇気』の中では、アドラー心理学を実践できるようになるまで「10年はかかる」とも書かれています。
正直、私は「他者の評価を気にせず生きる」なんて無理だと思っていました。
でも、それでもいいんだと、少しほっとしたのを覚えています。
本に出てくるような考え方を「知ること」と「実践すること」には大きな差があります。
できない自分を責めるのではなく、「あ、今日は難しかったな」で終えていいんです。
「理解したけどできなかった」も、立派な一歩。
その日の自分にできることだけを、無理せず、少しずつ取り入れていければ大丈夫です。
うつ病の人向け|読む前のQ&A
Q. うつのとき『嫌われる勇気』を読むのは危険ですか?

管理人
A. 一部の主張は強く感じられる
可能性があるため、
体調が比較的安定している
ときに読むのがおすすめです。
Q. どちらから読んだほうがいい?

管理人
A. 哲学的な理論を知りたいなら『嫌われる勇気』、
具体的な実例を知りたいなら『幸せになる勇気』からが入りやすいです。
Q. 読み進めるコツは?

管理人
A. 無理のないペースで少しずつ。
途中でやめても、
気に入った部分だけ拾ってもOKです
まとめ:焦らず、自分のペースで
アドラー心理学には、うつのときに読むと刺激が強い部分もある一方で、「自分の人生を生きるとはどういうことか」について、深く考えるきっかけになる言葉が詰まっています。
すべてを信じなくていい。
できる範囲で、自分に合った言葉だけをそっと持ち帰ってください。
誰かの期待に応え続けて疲れている人にとって、「自分の人生を選んでいいんだよ」というメッセージが、静かに背中を押してくれるかもしれません。
本ブログの本の紹介カテゴリーでは、ほかにもうつ病で現役図書館員による筆者独自の本のレビューを発信していますので、ぜひご覧ください!
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